読む台湾茶

高山茶の美味しさの秘密

2019/8/24 更新

あなたが一番好きな高山茶はどれですか?

阿里山、梨山、杉林渓、、、色々な声が聞こえてきそうです。店主は高山茶が嫌いという人には出会ったことがありません。台湾茶=高山茶と思ってる人もいるほど高山茶は台湾茶ファンの間で親しまれています。

では、その産地を選ぶ決め手はなんですか?

この質問にきちんと答えられる人は少ないと思います。事実、ほとんどの人が高山茶を産地のイメージと値段だけで選んでしまっています。阿里山は山並みが美しく、梨山は秘境、杉林渓は空気がおいしい・・・

このコラムでは、店主が高山茶の魅力を余すところなくご紹介します。正しい選び方を知って自分に合った高山茶を見つけましょう。

高山茶を楽しむキーワード

高山茶とは、その名が示すとおり「高い山でできたお茶」です。特定の産地を示すものではなく、一定の標高があるものはすべて高山茶と呼ばれます。つまり、阿里山も梨山も杉林渓もすべて高山茶です。

違う産地でもひとくくりに「高山茶」と分類してよいのには理由があります。それは、高山茶には産地によらない共通点があるからです。まずは高山茶が共通して持っている、味わいの特徴を2つご紹介します。

① 高山気

しっかりお茶に意識を傾けてください。ズズッと空気を含ませるようにすすると、鼻から頭に抜けるような清涼感が走ります。これが高山気です。

ミントのように純粋な味わいは、口中でぱっと拡散して、穏やかに引いていきます。飲みほした後には数秒間、涼しげな余韻が続きます。その余韻が心地よく、やみつきになって「もう1杯!」と後を引きます。

太極拳や東洋医学に関心のある方は、丹点を意識した呼吸法をご存知でしょう。呼吸に合わせて上下する「気」が、高山気のイメージに近いです。

よい高山茶には必ず高山気が存在します。寒暖差の大きい環境であればあるほど高山気も強まることから、高山気の強さをみることで標高が推測できます。標高が高いほど製茶量が少なくなり、値段は高くなります。

高山気の識別は比較的簡単にマスターできます。素性のはっきりした高山茶と平地茶を並べて、同じ方法で淹れて飲みくらべてください。

② 回甘

高山茶のもう1つの特徴は、回甘(フイガン)です。「戻りの甘さ」と表現する人もいます。

口に含むと、まずは茶葉の味わいがまっすぐに届きます。高山気はこのタイミングで最も強く感じられます。しばらくすると、旨味の中からわずかに「ここちよい酸味」が生まれてきます。そして次の瞬間、お茶の味わいは強い甘さへと一気に転化します。

一番最後にくる自然由来の甘さを「回甘」と呼びます。

ポイントは味わいが段階的に変化していくことです。それにより、たった一口のお茶が飛躍的に大きなスケールで感じられます。回甘に集中して味わうと、小さな一口が茶碗1杯に錯覚したという人もいるほどです。そして「もう1杯!」となるのです。

回甘は旨みがしっかりした茶葉にみられる現象です。標高が高い高山茶ほど旨みが凝縮し、回甘も強くなります。

標高の違いを味わう

下の表は、標高を3段階に分けて台湾茶の特徴をまとめたものです。平地茶、高山茶、そしてひときわ標高が高い高山茶を「高冷茶」と分類します。

一般に標高が高いほど製茶量が少なくなり、値段は高くなります。

標高が高いほど人気かというと、そうでもありません。お茶の好みは人それぞれです。飲みくらべの観点は色々ありますが、最も個性が出るのは「高山気」と「回甘」です。両者のバランスをもとに好みを探っていってください。

一つ興味深い話があります。高山茶が元々好きな人は、高山茶の爽快感と深い旨みが好きだと言います。これは納得できますね。一方、台湾茶を飲み慣れてない人の中には、高山茶は薄くてどこか物足りないという人が時々います。なぜでしょう。

濃度が高くなると茶湯はとろみを帯びてきます。すると、実際には濃いお茶であるにもかかわらず、とろみがあまりにスムースに身体に浸透していくため、味が薄いと錯覚してしまうことがあります。高級な日本茶でも同じような錯覚を起こす人がいるそうです。

「高山茶の定義は1000m以上」に対する店主の見解

台湾茶ファンの間で議論が尽きない話題があります。それは、標高何m以上を高山茶と定義するかという問題です。

本にはよく「1000m以上のお茶を高山茶と呼ぶ」と書かれています。一体1000mはどこから来た数字でしょうか。誰がはじめに言い出したのでしょうか。よく分かりません。

店主の実感でいえば、高山茶と平地茶の分岐点は、北部では文山包種茶が作られる坪林茶区あたり、標高600m~800mです。より熱帯に近い中南部では、分岐点はさらに数百メートル高くなる印象です。

北と南では気候が違うわけですから、標高で線引きをするのはどう考えても無理があると思うのです。もっと厳密に言うなら、同じ茶園であっても、そのシーズンの気候によって高山茶の特徴があったりなかったりします。

まとめると、店主の見解はこうなります。「高山茶の特徴を持っているものが高山茶、持っていなければ平地茶です。」

品質鑑定に関わる人はそもそも定義付けには興味がありません。台湾茶は例外だらけであることをよく知っているからです。多くの人が「高山茶は1000m以上」と主張するのであれば、店主は異論はありせん。

高山茶のみくらべ3選

① 標高違いの文山包種茶

台北縣坪林茶区は、主に標高600m~800mに茶園が広がります。この範囲内に平地茶と高山茶の境界線が見られることが多いです。同じ製茶日の標高600mと800mの文山包種茶をくらべて、高山茶の特徴を観察しましょう。

標高600mの文山包種茶は、口に含んだ瞬間にストレートに味わいが広がります。ゆがみないお茶の旨味が口じゅうに届き、のどを旨味で包み込むように潤します。

標高800mの文山包種茶は、口に含むと、わずかな時間差があって、それから味わいを感じます。きめ細かな舌触りで、涼しげな余韻が長く続き、旨味がのどに染み入ってきます。

当店の文山包種茶は、基本的には標高の高い茶園からセレクトしています。標高が高いほうが味わいに透明感があって、より多くのお客様に支持されるからです。ただし、これはあくまでお茶の個性の話で、好みは人それぞれです。

② 高山茶と平地茶

高山茶の特徴として「高山気」と「回甘」をご紹介しました。高山気は高山茶にしか見られません。でも回甘は良質な平地茶でも観察できます。そこに着目しましょう。

平地茶の代表は、木柵正欉鐵観音東方美人です。これらは製茶時に発酵を高めることによって滋味密度が高くなります。ゆえに回甘が観察できます。特に鉄観音は、発酵を高めることではじめて持ち味を発揮する品種です。

近年、発酵が強い鉄観音はだんだんと見られなくなっています。その理由はいくつか考えられますが、私は「攻める発酵」がやりにくいことを挙げておきます。今は昔よりも気候条件が整いにくくなっており、作り手は最新技術をもっても変動因子を制御しきれないのです。

発酵が軽い鉄観音は、表面の香りは焙煎で立たせることができますが、回甘はありません。発酵が軽いものは滋味が薄いからです。回甘がない鉄観音はいくら寝かせても陳味(熟成味)は生まれません。

このように高山茶と平地茶を飲みくらべて、回甘を理解しましょう。そして高山気と回甘の理想的なバランスを探っていきましょう。

③ 高山金萱茶

金萱といえば甘さが魅力の品種です。台湾茶ブームの火付け役で、今でも特に台湾茶ビギナーに人気があります。一方では、台湾茶に飲み慣れてくるとだんだんと金萱から離れていく傾向も見られます。はじめはあれほど感動を覚えた金萱をなぜ飲まなくなってしまうか、理由を考えたことはありますか?

その前に、生産者にとっての金萱のメリットを挙げておきます。金萱は病害虫への耐性が強く、生育旺盛で収量も多く、なおかつ茶葉の外観も美しいのが特徴です。多品種栽培の一つとして金萱を組み込むことで、摘茶のサイクルが他の品種とずれてくれることも重要なポイントです。

さて、鑑定の視点で金萱を見たときに、残念な点が1つあります。それは、生育速度が早いことの裏返しで、味が薄いのです。滋味密度が高いお茶は「①お茶の味→ここちよい酸味→②回甘」と転化することをお話しました。ところが味が薄いと回甘には至らず「①お茶の味→②雑味・渋み・苦味」と変化します。

味が薄いために回甘が生まれにくいという事実は、どの新品種にも共通します。その弱点をカバーしてくれるのが、新品種の個性豊かな味わいです。

金萱でいえば「①お茶の味」が甘いことです。「②回甘」に気づくには、台湾茶に飲み慣れておく必要があります。でも「①お茶の味」であれば誰でも直接的に感じることができます。だから金萱はビギナーの心をぐっと掴んでくれるものの、味覚が鍛えられていくにつれて、それほどの魅力を感じなくなってくるのです。

大事なのはこの先です。

金萱は味が薄い、雑味が出やすいといいながらも、一つだけ例外があります。それが高山茶区の金萱茶です。当店のラインナップで言えば阿里山高山金萱茶樟樹湖高山金萱茶です。高山茶区で育った良品は十分な濃度があります。そして濃度がある高山金萱茶は「②回甘」を持ちます。

つまり「①お茶の味」では金萱の甘さを、「②回甘」では回甘の甘さを楽しむことができます。もちろんどちらも天然由来です。一口で2種類の甘さを楽しめるのは高山金萱茶だけです。金萱と烏龍種(青心烏龍)を飲みくらべて、金萱の魅力を感じてください。

店主は高山金萱茶が大好きです。茶葉の見た目もよく、贈り物にもおすすめしています。これまで金萱と耳にするだけで飲むのを避けてきた方は、本当にもったいないと思います。

包装場に行って気づいたこと

中国における台湾茶のブランド力はすさまじく、中でも台湾高山茶は台湾にやって来る中国人観光客の定番土産になっています。もちろん台湾国内でも高山茶は人気があります。現在高山茶は深刻な供給不足に陥っており、輸入した茶葉に「台湾高山茶」のラベルを貼って売らなければいけないのが現状です。

店主は台湾中部、標高300mの南投県名間郷にある包装場を訪ねました。包装場とは、茶袋や化粧箱を売る専門店のことです。名間郷は台湾を代表するお茶の一大産地です。農家は作ったお茶を包装場に持ち込んで、150gや300gの真空パックにしてもらいます。大概の茶産地にこのような包装場があります。

包装場で売っている茶袋や化粧箱は数百種に及びますが、その約7割に「高山茶」と印刷されています。2005年当時の値段は茶袋13円、化粧箱25円から。繰り返しますが、ここは標高300mです。もちろん高山茶区からお茶を持ってくることはあるとしても、これほどの高山茶のパッケージの多さは不自然だと思いませんか。

包装場の入り口。ラミネートの機械が見えます。

茶袋のほとんどが「高山茶」

良い台湾茶を買うために、私達ができること

良い台湾茶を手にするためのテクニックはあちこちで紹介されています。観光地では買うな、いくら以上のお茶を買え、何番目に高いお茶を買え、常連でないと良いお茶は買えない、農家から直接買えなどなど。これらには共通点があることに気づいたでしょうか。

そう、お茶そのものには何も触れてないのです。

それもそのはず、烏龍茶の鑑定は自然飲料の中で最も難しいと言われています。野菜や果物と違って、見た目では良し悪しが分かりません。味覚センスを磨けばマスターできるものでもありません。烏龍茶は製茶プロセスが複雑なこともあり、ワインほどはテロワール(風土の味)も反映されません。

店主の経験で言えば、10年くらい日々試飲を繰り返してぼんやりと基準軸が見えてきました。と同時に、同じお茶は2つとして存在しないことを知り、鑑定の勉強には終わりがないことを悟りました。

お茶選びが難しいなら、人選びを考えましょう。自力でお茶を選ぶのに比べたら、お茶を選べる人を選ぶほうがはるかに容易です。事前にある程度の知識を持っていれば、お茶屋さんの言ってることが正しいかどうかは判断できるでしょう。

店主もお茶選びでは人間観察を大切にしています。お茶の選定は時間との戦いでもあります。雑談のうちに「相手はお茶を選べない」と気づいたら、もうそこいる理由はありません。茶葉を見せてもらう必要もなく、すぐさま席を立ち、次の候補へ向かいます。

日本で買うか、台湾で買うかという議論もありますが、それも重要ではありません。お茶を正しく理解している人が良いお茶を選べる、というシンプルな発想のほうが大切だと思います。

さあ、高山茶を飲みましょう

台湾茶を学ぶ上で、高山茶にはたくさんのエッセンスが含まれています。人間の味覚は不思議なもので、きちんと理解して飲むことでお茶が何倍にも美味しく感じられます。

店主はたまたま旅先で口にした阿里山高山茶がきっかけで台湾茶の虜になりました。その感動を毎日思い出しながら、高山茶の魅力を広めていきたいと思います。

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