読む台湾茶

機械摘みの実力

2019/11/21 更新

まずい? 初心者? がぶ飲み用?

どういうわけか、台湾茶ファンの中には機械摘みの台湾茶にマイナスイメージを持っている人がいます。機械摘みは手摘みよりも安いから、品質への期待も小さいようです。

考えてみてください。茶農家はなぜ機械摘みをわざわざ作ろうとするのでしょう?それは、ある目的のためです。

このコラムでは機械摘みと手摘みの知識をまとめます。手摘みにはない、機械摘みだけが持っている魅力もたくさんご紹介します。両者をうまく使い分けて台湾茶のレパートリーを広げていきましょう。

機械摘みはイメージがわるいのはなぜか

安くて高品質な台湾茶を飲みたいという願いはみな同じです。そうなると、はじめのうちは色々な価格帯の台湾茶がある中で比較的安いものを選ぶでしょう。台湾茶ファンであれば一度や二度は機械摘みを購入した経験があるはずです。

機械摘みは、お店によって品質の差がたいへん大きいお茶です。たまたま良いものに出合えて、それを飲み続けらる方はラッキーだと思います。

ありがちな思考パターンをご紹介しましょう。機械摘みについて中途半端に知識を持っていると、たまたま飲んだ台湾茶が美味しくなかった時に「安いから仕方がない、次は高級な手摘みを買おう」と解釈してしまうのです。実際、そのお茶が本当に機械摘みかどうかは関係ありません。がっかりした経験が誤った知識を強化してしまい、いつまで経っても機械摘みに正面から向き合おうとしなくなるのです。

機械摘みとは?手摘みとは?

台湾茶の摘み方には2種類あります。ひとつは手摘み、もう一つは機械摘みです。

茶摘みの光景をイメージしてください、と言われてぱっと頭の中に浮かぶのはおそらく手摘みです。笠をかぶった女性が歌を唄いながらお茶を摘む、あの光景です。一方、機械摘みには色々な方法があるのですが、最も一般的なのは2人で茶樹の畝をはさんで、カーブした刃がついたバリカンで茶葉を刈り取る方法です。

茶農家の視点、消費者の視点

機械摘みと手摘みを比べると、手摘みのほうが全てにおいて優位だと思われがちです。でも、本当にそうでしょうか?

下の表は、機械摘みのメリット・デメリットをまとめたものです。茶農家の視点と消費者の視点に分けて書きました。左右を見比べながらじっくり眺めてください。

茶農家にとっては作りやすさ、つまり低コストで失敗が少ないことが機械摘みを採用する最大の理由です。一方の消費者側は、手頃な値段で気軽に楽しめると点で機械摘みが重宝されています。

このように、機械摘みは茶農家にとっても消費者にとってもメリットがあります。両者の思惑が一致したところが機械摘みの存在価値です。機械摘みが手摘みに及ばない面もいくらかはあります。でも、ほんの少し目をつむるだけで、農家にとっては安定収入につながり、消費者にとっては安くて美味しい台湾茶が楽しめるのです。

機械摘みはこう見る~鑑定の立場から

機械摘みで最も評価したい点は「ベストタイミングで収穫」できることです。手摘みは収穫したいタイミングで人手が確保ができない状況によく出くわします。

同じ一日の中で見ても、品質がブレないよう短時間で収穫を終えることが理想的です。手摘みの場合は、朝摘んだ茶葉も夕方に摘んだ茶葉も混ぜられて製茶されます。そのため、手摘みはひとまとまりの茶葉の中でも品質差が生じやすいという弱点があります。この点において、手早く収穫できることは機械摘みの大きな強みといえます。

ワインの世界でも同じように受け止められています。機械摘みは手摘みのように一房ずつ選果しながら収穫することはできません。しかし、短時間で効率よく収穫できる機械摘のメリットは、手摘みのマイナス面を上回ると考えている造り手が多いそうです。

台湾茶はワインよりも温暖な気候の下で作られます。ゆえに台湾茶はスピード感が求められます。柔らかい新芽は、理想のタイミングから1日遅れるだけでも価値が半減します。台湾茶はその日のそのタイミングで収穫をすることが大変重要なのです。

機械摘みを美味しく淹れる3つのコツ

① 茶葉は手摘みよりも多め

茶葉の量は心持ち多めにしましょう。抽出がスムースに行われ、一粒一粒の茶葉への負荷を抑えることができます。手摘みはティースプーン2杯と決めてる人は、機械摘みは3杯で試してみましょう。

② 沸かしたての熱湯を使う

空気をたくさん含んだ熱湯を使用します。メリハリのある味わいを引き出しやすくなります。香り立ちの良さも機械摘みのメリットです。全ての茶器はあらかじめ温めておきましょう。

③ 手早い抽出を心がける

ちょっと薄いくらいで湯切りを始めます。湯切りの後半は抽出液が濃くなってきますので、最後まで出し切りましょう。必要以上に抽出に時間をかけると雑味が現れやすくなります。

機械摘みは低温で淹れるべきですか?

機械摘みは熱湯ではなく、少し冷ましたお湯を使うほうがよいと主張する人が時々います。雑味を抑えられると言いたいのでしょうか。でも私は反対です。台湾茶は基本的にはどんなお茶でも熱湯で大丈夫です。

機械摘みの葉は一枚一枚が完全形ではなく、端々が切れた葉を含みます。もっと正確に言うと、切れた葉もあれば、完全な葉もあれば、枝元まで残っている葉も含まれています。色々な形をした茶葉が熱湯に浸されると、ある部分はすぐに抽出され、ある部分はゆっくり抽出されることになります。

低温にすれば雑味を抑えられるのは、確かにそのとおりです。ところが実際は、雑味だけでなく、お茶が本来持っている旨みまでもが抽出されにくくなります。これでは色のついた白湯を飲んでいるようなものです。

良質な機械摘みであれば、ちょっとした工夫で雑味はコントロールできます。熱湯で淹れて、機械摘みの特徴であるメリハリのある味わいと香り立ちの良さを楽しんでください。

機械摘みにぴったりのシチュエーション4選

① 朝は機械摘み、午後は手摘み

目覚めの一杯は機械摘みで気分をシャキッと。くつろぎタイムには、とっておきの茶器で味わい深い手摘みを。

② 日本茶急須で機械摘み

毎日の食事にもぴったり。日本茶感覚でさっと淹れましょう。薄めに淹れることで料理の美味しさを引き立てます。

③ 熱湯でアイスティー

2倍の濃さで抽出して、氷をたっぷり入れたグラスに注ぎます。一気に冷やすとキリッとした香りが際立ちます。

④ おもてなしの1杯目に

ブーケのような香気は来客の心を掴みます。じっくり話をする場面では、煎が続く手摘みに切り替えるとよいでしょう。

機械摘みを買う前に知っておきたい3ヶ条

機械摘みは台湾茶を販売するほとんどの店で取り扱いがあります。安くて美味しい機械摘みを手にするために、これだけは覚えておきましょう。

① 粒の大きさが重要ではない

機械摘みは全体に粒が小さめで、大きい粒と小さい粒が混じっています。同じグラム数を計量すると、機械摘みの方が手摘みよりも粒数が多くなります。品質鑑定の世界では、粒が多いことを「味わいの構成要素が多い」と考えます。つまり、粒の大きさだけでお茶の良し悪しが決まることはありません。

② 安くても、良いものは良い

機械摘みの値段は手摘みの3分の1ほど。機械摘みが安い理由は、品質が劣るからではありません。単純に生産コストが安いからです。機械摘みは手摘みほど回数を楽しむことはできませんが、品質が良くて安いのなら十分買うに値します。機械摘みは葉面が切断されているため、1煎目からしっかりした茶湯が得られます。

③ お店の目利きは機械摘みで分かる

試飲ができないお店では、最も安い機械摘みからテストしましょう。機械摘みが正しく選べないお店に高級な手摘みは選べません。なぜかというと、機械摘みの鑑定方法は手摘みと全く同じだからです。機械摘みは良いお茶とわるいお茶の差が大きく、店主も時々とんでもない機械摘みに遭遇することがあります。

機械摘みは本当は安くておいしい

機械摘みのイメージは変わりましたか?機械摘み=まずいと思い込んでいた方は、本当にもったいないことをしてきました。機械摘みはコストパフォーマンスに優れた魅力あるお茶です。

機械摘みのメリットと手摘みのメリットを理解して、上手に使い分けることで充実した台湾茶ライフをお楽しみください。

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